chapter-04

ケースでみる、承継開業なら当たり前にできること

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【CASE1】
新規から一転して承継に切り替えたら、わずか2ヶ月で開業できました
美浜どうぶつ病院 太田紘平院長(千葉市美浜区)


西川: 承継開業に到るまでの経緯からお聞かせください。
太田: 最初は「新規開業でやろう」と思い込んでいました。それから5年間、新規開業のために時間を費やしました。厳しいと知りながらも、新規にこだわり続けてきました。

西川: 新規から承継に切り替えようと思ったきっかけがあったのでしょうか。
太田: 「これはいける」と思った矢先に新規開業がダメになってしまったことです。年齢も40歳近くになっていましたので、決断を迫られる年になっていたことも一因です。ここで発想を切り替えるため、とりあえずは承継開業の話だけでも聞いてみようと思って、2017年2月に西川さんにメールを送ったのが始まりでした。それから4月には病院に勤め始めて、5月には新院長になったのですから、本当に不思議としか言いようがないですね。

西川: 忙しい病院を引き継ぐとなると、果たして自分ができるかどうかと不安になる先生もいるのですが、その時はどうでしたか。
太田: それは、不安になりますね。ただ新規開業でも不安があるのは同じだから、ここで一歩を踏み出さなければダメだという覚悟ができていました。

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西川: それから数カ月、この事業承継のメリットとして、太田先生が感じられた点がありましたらお聞かせ下さい。
太田: まず感じたことは、院長初日にして患者さんが来られることです。他の同期はたいていが新規開業でしたので、はじめの数ヶ月間は来院者が少なくて、精神的に追い詰められていたとの話を聞いていました。
また、新規であれば、数カ月も患者さんが来なければ手術の感覚が鈍くなってしまうのではないかという不安があるでしょうが、承継開業では初日から重症症例も来ますから、自分の腕がふるえる点も違う点ですね。
さらには、スタッフがそのまま引き継げたことも大きなメリットだと感じています。スタッフが私が聞かなくても患者さんについて教えてくれるのは有難いです。

西川: この承継開業では、前院長の診療方針に縛られて、自分のスタイル、カラーが出せなくなることでストレスになるのではと捉えておられる先生もおられます。この診療方針の違いでストレスを感じたことはありますか。
太田: 前院長の夏目先生の診療方針に共感した方々が今の患者さんなので、院長が代わった途端に方針転換すると、患者さんもスタッフもビックリするでしょう。私が患者さんやスタッフの立場になって考えてみれば、院長が急に方針を変えたら、ついていけないとなってしまうのが当然だと思いました。前院長の方針を受け入れつつ、必要があれば、患者さんやスタッフと話し合いながら変えていけばいいと考えています。 この点について夏目先生は、「患者さんは前院長と治療のやり方が変わると、どっちが正しいのだろうと思われるでしょうが、今は医療技術が日進月歩で変化する時代。毎年、同じ治療をしている方がむしろダメです。だから、診療方針はどんどん変わってこそ当たり前。これは、前院長がしっかりと患者さんに伝えておかねばならないことですね」と仰っておられました。

西川: 「前院長の方針を受け入れる」のは、できるようでなかなかできないことです。
太田: これは、子供の頃からやっていた少林寺拳法の影響かもしれません。
相手に掴まれた時、力任せで押し返そうとするよりも、いったんは相手の力をうまく吸収して、一回自分のところに受け入れたうえで、その力を利用して押し返す。すると、相手は大きな力がなくとも飛んでいく。
この「いったん受け入れる」ことは、会話でも同じだと思いました。患者さんに接する時も同じで、いったん自分が受け入れてから話すようにしています。
この少林寺での経験も無駄ではなかったのだなと感じています。

西川: 本日はありがとうございました。

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【CASE2】
新規ではなく、承継を選んだのは、「預貯金が少なかったため」。 前院長の20年の実績のおかげで問題解決ができ、 私は承継開業できました
伊藤慎一郎 院長 丘の上動物病院(宮城県仙台市)

西川:開業するに当たっては大きな問題があったとのことですが、伊藤先生がこの第三者事業承継を選 んだ理由は何だったのでしょうか。
伊藤:当初は新規開業するつもりでした。西川さんとのご縁は 3 年前の 2012 年になります が、その頃はまだ「新規でやろう」という意識でした。ところが、20144年になって自分の思いが変わっ て、「事業承継でもいいかな」と思い始めました。 その1番の理由は、「貯金が少なかったこと」です。  私が銀行から開業資金を借りようと思えば、 1000 万円か、2000 万円が限界。銀行は貯金がなけ れば貸してはくれませんから。この金額で新規開業 となると、かなり酷い状態になることは十分予測が できました。医療器材が揃わないとか、場所も思ったところには開業できずに辺鄙なところにせざるを えないとか、内装もできないとか、毎月の売上げも テナント代で消えてしまうのではないかとか、マイ ナスの事ばかりが次々と頭に浮かんできて、これで は新規でスタートするのはリスクが高すぎると思って、西川さんに、事業承継できる病院を探して頂く 依頼をしました。それからこの丘の上動物病院の弓木院長先生と出 会い、迷う事なく、ここに決めました。そしてこの事業承継で私が開業できたのは、銀行 の弓木先生への信頼があったことと、不動産を含め ての譲渡で担保ができたことで、私の希望通りの額 を融資してもらうことができたからです。不可能だ と思っていたことを可能にしてくれたのがこの第三 者事業承継です。もし西川さんから承継の話がなけ れば、私はまだ勤務医を続けていたことでしょう。

西川:伊藤先生の年齢ですと同時期に新規開業された同期の先生もおられるでしょうが、新規開業と承 継開業にどのような違いを感じられておられますか。
伊藤:私の同期で新規開業した先生がいますが、「1日ゼロ件の時もあります」と聞いています。私はこの丘の上動物病院を承継してから件数が少 ないと思う時もありますが、ゼロ件だったことは一度もありません。  むしろ、現在獣医師が私1人なので、結構大変な 日が多いです。  同時期にスタートしても、承継して院長になった 私は、「獣医師やスタッフがもっとほしい」と考えて いるのですから、前院長先生が残してくれた実績か らスタートできるのは大きな違いだと思いますね。  また、定期健診などのご案内をDMで出す場合、 新規だと、無作為にばらまかないといけませんが、 承継だと、今までの患者さんのカルテがありますか ら、ターゲットを絞ってDMを出すことができます。 DMの効果は明らかに違うでしょうね。  「前院長が何十年と掛かってつくられたカルテが あるかないか」、新規開業ではゼロから作る訳です から、これは圧倒的な違いと言うべきでしょうね。

西川:この承継によって開業のチャンスを得られたと のことですが、承継から半年経って伊藤先生が気付か れた事業承継のメリットは、ほかにもありますか。
伊藤:私の場合、銀行から融資が受けられたことや 弓木先生のカルテを受け継げたこともメリットであ るとお話しましたが、院長を引き継いで半年経って 感じるのは、「院長になってから一日も休みがない」 ことですね。  勤務医の時は休めましたが、院長になってからは 一日も休みがとれていませんね。  これは勤務医の時には感じられなかったことです が、「休みがとれないほど忙しくさせて頂いている」 ということです。
新規開業だと最初は「開店休業状態」だと思いま すが、私は承継直後から、手術は1日1件以上のペー スで入ってきています。売上げでみても毎月2割か ら3割アップで、多い月は5割アップの時もありま す。この忙しさで、引き継いでわずか半年で新しい スタッフが欲しいというのは、贅沢な悩みですね。  勤務医の時なら休みがなければ不満ばかり言ってい たのだと思いますが、病院院長になると、今度は休み がないことが有り難いと思えるようになりました。これも事業承継のメリットだと思いますね。

西川:承継する病院を決める上で伊藤先生が出され た条件はどういうものだったのでしょうか。
伊藤:北海道からこの仙台に就職で出てきて、仙台と盛岡で勤務医を9年間続けてきました。開業をと 考えた時、地元北海道に戻ることも選択肢としては あったのでしょうが、勤務医として周りの繋がりが ある場ですし、一緒に働いてきた仲間がいましたか ら、「この仙台であること」を1つの条件としました。 ただ勤務していた病院と同じ仙台ですので、「勤め た病院とは近くないこと」も条件に加えました。場所にはこだわりましたが、後は条件をつけませ んでした。後から西川さんに「この仙台だけでと考えた時に 承継案件が自分の思いに見合うものがこれだけの短 期間で出て来る可能性は限りなく低い。むしろゼロ と言った方がいいかもしれない。それでも案件が出 て来たのは伊藤先生が強運の持ち主だからでしょう ね」と言われましたが、本当に運も味方につけない と私が希望するこの仙台で承継する事は不可能に近 いことだったのかもしれませんね。

西川:前院長の弓木先生からの事業引き継ぎはどんな 形で行われましたか。
伊藤:引き継ぎについては、弓木先生と2週間一緒 に診察などをして、その間に必要なことは話して頂きました。20 年もの歴史のある病院を引き継ぐにしては、 非常にシンプルでしたね。それは、スタッフが残ってくれたおかげです。患者さんのことは全部、スタッフが憶えてくれて いましたから、大いに助かっています。承継の時に スタッフがいなくなっていたらと考えると私1人で 一体どうなっていただろうと思いますが、残ってく れたのは本当に有り難かったです。 「事業承継では病院建物、医療器具の他にカルテ を引き継ぐ事がメリットです」と西川さんからお聞 きはしていましたが、そのカルテの内容を全部把握 して患者さんのことを一番知っているのがスタッフ です。私の承継では、スタッフも引き継ぎましたか ら、院長先生からの引き継ぎも楽でしたし、承継後 の診療で困ることはありませんでした。